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ホームズの極秘事件簿 その1
恐怖!!ゴンババの逆襲
その日、私がベーカー街のホームズの部屋を訪ねると、テーブルの上に書置きがあった。
「日本の盛岡シティへ行く。君も後から来るように。ホームズ」
一体、何が起きたのか判らないけれど、ホームズに呼ばれたのなら、行かなければならない。私は寝室へ通じるドアを開けた。ドアの外は雪の舞う公園だった。そう、何を隠そうホームズの寝室のドアは『どこでもドア〜』になっていたのだ。
一面雪に覆われた公園の地面に這いつくばっているホームズがいた。彼の側には犬を連れたご婦人が立っている。
「ホームズ、そんな処で何をしているんだい」
「ワトスン、ご挨拶だね。見れば判るだろう。事件だよ。今朝、この公園に毒入りソーセージが撒かれていたんだ。こちらは僕の友人のお姉さんでミセス・スパゴだ。彼女の依頼で僕ははるばる盛岡までやって来たというわけさ。何しろ最近はヒマを持て余しているんでね」
そう云うとホームズは両手を揉み合わせた。これは寒いからではなく、彼が事件に興味を持っている証拠である。
その時、ミセス・スパゴが少し尖った声を出した。
「ホームズさん、退屈しのぎにいらしたのならお帰りになってもよろしいんですのよ」
「いや、これは失礼。何というか私にとっては大変興味深い事件だという事です」
いつになくホームズはしどろもどろになっている。
「処でホームズ、犯人の目星はもう、ついているのだろうね」私は見かねて助け舟をだした。
「ああ、勿論だとも。僕の推理によると、犯人はこの辺りでゴンババと呼ばれている老婦人さ。この街では犬を飼っている家がとても多いのだが、彼女も犬を飼っている。しかし陰険で疑り深い彼女は自分が散歩仲間に入れてもらえないことを以前から僻んでいた。自分の家の前の公園で他の犬や飼い主たちが楽しそうにしているのを忌々しく思っていたのさ」
ホームズはミセス・スパゴの飼い犬、タロウの頭を撫でながらゴンババの家の方を睨んだ。
「しかし、そんなことぐらいで毒入りのソーセージをバラ撒くなんて、僕には信じられないね」私がそういうと、
ホームズは私の顔を呆れたように眺めていった。
「ワトスン、僕が証拠もなしにそんなことをいうと思っているのかい。ゴンババは散歩の時にリード(紐)を犬に付けたことがないんだ。それが今朝に限って、きちんと付けて歩いていた。しかも、この公園を避けてね」
「さすがホームズだ。そこまで調べがついていたのなら、君のいう通りだろうね。君の推理に間違いがあったことなど、今までに一度もなかったことは僕が証明するよ」
私は異国のご婦人にホームズの素晴らしさを知らしめたことが嬉しくて、胸を張った。
ところがミセス・スパゴは感嘆の色を浮かべるどころか、あからさまに失望した様子でこういった。
「ホームズさん、それは私が調べてあなたにお知らせした事ばかりではないですの。その程度の推理でしたら私にも出来ます。とんだ時間の無駄遣いをしてしまったわ。失礼します。タロウ、おいで!」
大股で去って行くミセス・スパゴの後姿を私たちは呆然と見送るばかりだった。
『どこでもドア〜』からベーカー街のホームズの部屋に戻った私たちは、無言のまま暖炉の前に腰掛けた。
ややあってホームズがぽつりといった。
「何だね、ワトスン。僕はもう引退した方がよさそうだね」私は、彼にかける言葉が見つからなかった。
こうしてホームズは田舎へ引っ込み養蜂に精を出す事になったのだが、その理由を知っている人は少ない。
この話は事実を元にして、脚色したものである。ミセス・スパゴはなぜかうらんの姉だったりする。
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