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逆さエスカレーター
若い頃は、恥をかいたり、ちょっとしたことに傷ついたりして、何日も落ち込んだものである。
今の私は伝線ストッキングを平気で会社に履いて行くようなおばはんになってしまったが。
高校一年の時のことだった。友達と学校の帰りにデパートへ寄り道をした。いつも地下のラーメン屋でコーンラーメンを食べるのが、彼女と寄り道をする時のお約束だった。そうして食べ終わってもだらだらとお喋りをしてから別れるのである。時には他の売り場をひやかしに覗くこともあった。当時は小遣いのほとんどを飲食に費やしていたので、何を買うわけでもない。
その日も、彼女と他愛もないお喋りに夢中になりながら、エスカレーターに乗って上の階へ向かっていた。
婦人服売り場では、エスカレーターの前にワゴンが出ていて、店員が所在なげに立っている。私たちはそのワゴンをちょっと覗いてから、すぐに上の階へ向うエスカレーターに足をかけた。そのとたんに、私たちは「うわぁ〜」と悲鳴を上げながら、その場で地団駄を踏んでいた。
好きで地団駄踏んだわけではない。私と友達は、逆方向の上ってくるエスカレーターに乗ってしまったのである。二人同時にエスカレーターから飛び降りると、ぱっと後を振り向いた。するとワゴンの前にいた男の店員と数人の女性客が呆気にとられて私たちを見ていた。一瞬の静寂の後、私と友達はなぜか大笑いしながら、上りのエスカレーターに乗って行ったのである。お腹の皮がよじれるほど笑った。何がそんなに可笑しかったのか判らないが、あれがひとりで同じことをしていたら死ぬほど恥ずかしい思いをしていたと思う。
その後、私と友達が何をしたのか、まったく思い出せない。
つり革事件
これも高校の時の話だが、私は京浜東北線を利用して通学していた。大抵、方向が一緒の友達と帰りは一緒になる。駅の階段を降りると、電車がホームに停まっていた。始発駅なので慌てることなく電車に乗り込んだ。車内は、立っている人が数人いる程度の混み具合であった。
電車に乗りこむと動いていなくても自然とつり革に手が行くものである。私も、数人の友達と共につり革に手をやった。ぐっと自然、最初は力が入る。すると、ぽろっ・・・。つり革が私の手にぶら下がっていた。輪っかに吊る部分がくっついたまま、外れたのである。
「あれぇ〜?」私は素っ頓狂な声を出して、つり革を持った手を突き出した。私がしっかりと握り締めたつり革の輪っかを見たとたんに、友達は引いて行った。まるで、他人のような顔をして。
鉄の棒に止める部分が何か鋭利な刃物で切ったようになっていたのだ。他の乗客たちもあちこちで笑っている。しばらく、呆然とつり革を眺めていた私は、持って帰るわけにもいかないので、仕方なく元の場所に戻した。それからしばらくして、やはり学生が乗ってきて、その中のついていない男子生徒が、私がしたようにつり革を握り締めて呆気にとられている。
ひと言、注意をしてあげれば良かった。
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